大澤教授『ウコンの健康機能性』大澤教授『ウコンの健康機能性』

『ウコンの健康機能性』

愛知学院大学 心身科学部 学部長・教授 / 名古屋大学 名誉教授 大澤 俊彦

超高齢化社会を迎えた今、注目が集まる「機能性食品」。

超高齢化社会を迎えた今、特に求められているのは「健康長寿」のための健全な食生活です。
しかし、食生活の欧米化に伴うカロリーや脂肪分の過剰摂取が、脳梗塞や虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患をはじめ、がんや糖尿病合併症などの生活習慣病を増加させた主な原因に挙げられています。毎日の食事が、一方では生活習慣病の発症につながり、また他方では予防に機能していることは、最近の科学的研究によって明らかにされています。特に「食生活」の役割は極めて重要ですが、理想的なバランスの取れた食生活の実践は難しく、「機能性食品」の役割が注目されています。

しかし、「サプリメント」を含む「いわゆる健康食品」に関しては、薬事法により健康への有用性や効果の表記は許可されず、「特定保健用食品(トクホ)」だけが認められています。消費者に対して商品の情報提供が制限されることは食品業界の懸案事項でしたが、アベノミクスの一環として「いわゆる健康食品」の「新たな機能性表示制度」の検討が進められています。2015年4月には企業の責任で、科学的根拠に基づく機能性の表示が可能となる予定です。
私も協力委員の一人として作業に加わり、今後の行方を興味深く見守っています。

愛知学院大学 心身科学部 学部長・教授 / 名古屋大学 名誉教授 大澤 俊彦

愛知学院大学 心身科学部 学部長・教授 / 名古屋大学 名誉教授

大澤 俊彦

機能性食品研究、特に抗酸化食品研究の第一人者。
食品と生命機能の関わりをテーマとして、食事が要因となる生活習慣病誘発メカニズムの解明・予防に関する研究を行う。その傍ら、抗酸化食品を普及させるべく、メディアにも多数出演。また、産学官の枠を超えて、大学発のベンチャーにも取り組むなど、幅広い活動を行っている。日本フードファクター学会理事長、日本ゴマ科学会会長、アスタキサンチン研究会会長、日本予防医学会常任理事などを歴任。

ウコンに含まれるクルクミンは、多彩な機能性を有する。

私たちは今、全力で科学的根拠に基づく機能性食品開発の基盤的な研究を進めていますが、研究対象として特に注目したのが、ハーブ・スパイスです。
なかでもインド料理に不可欠で日本でもなじみの深い香辛料、ターメリック(秋ウコン)に注目してきました。ターメリックの主要な機能性成分であるクルクミン(黄色色素)はポリフェノールの一種で、私たちは様々な研究機関と共同で、皮膚がん、大腸がん、乳がん、腎臓がんなどに予防作用が期待できるというデータを発表してきました(注釈1)

なかでも私たちが注目したのは、クルクミンが代謝されて生成する「テトラヒドロクルクミン」が機能性発現に重要な役割を果たしているという結果でした。そのメカニズムは、クルクミンを摂取するとまず腸管上皮細胞で還元され、強力な抗酸化性を持つテトラヒドロクルクミンに変換されたのち、酸化ストレス制御機能を発現するという興味ある機構でした。
ウコンの黄色色素であるクルクミンは化学的に安定で、沖縄では“ウッチン染め”と呼ばれる「ウコン染め」が伝統的に用いられています。また、インドでは女性の伝統的な化粧品の原料として使用され、インドネシアでは黄金の色としてウコンが重宝されて結婚式にウコンを皮膚に塗るという儀式も知られています。

皮膚疾患や皮膚がんに対して塗布利用した場合は、クルクミンが直接作用して抗炎症性を示していると考えられていますが、ヒトが摂取した時にはテトラヒドロクルクミンに代謝されて強力な機能を発現すると考えられます。

大澤 俊彦教授

クルクミンには健康長寿を実現する可能性がある。

クルクミンの生理機能は生活習慣病の予防だけでなく、脳内老化を抑制し認知症の予防にも期待できるのではないかと考えて研究を進めています。

ヒトの「健康長寿」を目的に、国立長寿医療センターと共同でマウスを用いて寿命延長に関するクルクミンの効果を検討しました。13週齢からテトラヒドロクルクミンを投与したマウスの最大寿命は延長しませんでしたが、加齢に従って低下する生存曲線が緩和されました(注釈2)。クルクミンをはじめとする「抗酸化フードファクター」による老化制御で、“理想的な死”と考えられる「健康死」に至る可能性が示されました。

赤ワイン中に存在するレスベラトロールの強力な寿命延長効果が見出され、2003年にNature誌に掲載されて大きな注目を集めました。その内容は、寿命延長に重要な役割を果たしているサーテュイン(sartuin)ファミリーの脱アセチル化活性を強く促進するポリフェノールとして、レスベラトロールが同定されたというものでした。私たちは国立長寿医療センターとの共同研究で、ショウジョウバエを用いて寿命延長および抗酸化ストレス応答効果を示す物質の探索を行いました。クルクミンの代謝物であるテトラヒドロクルクミンがレスベラトロールよりも強力な効果をもち、そのメカニズムはストレス応答性の遺伝子を標的遺伝子とするFOXO転写因子の核内局在誘導作用であることを明らかにしました(注釈3)。FOXOはカロリー制限による寿命延長に重要な役割を果たす転写因子です。

さらに詳細な検討を行い、クルクミンがカロリー制限と同じメカニズムで寿命を延長しているのか、またその作用部位はどこにあるのかを特定したいと考えています。

ビサクロンにはウコンの可能性をさらに拡げることが期待できる。

最後に、クルクミン以外に秋ウコン中に存在する機能性成分として注目を集めた「ビサクロン」について簡単に紹介をしたいと思います。その内容は、2014年8月30日に開催された「日本食品科学工学会 第61回大会」で発表されました。「ビサクロン」がエタノール誘発肝細胞傷害抑制活性を有すること、「ビサクロン含有ウコンエキス」のもつ酸化ストレスの抑制や抗炎症作用等の機能が示されています。

今後、動物試験や臨床試験でウコンの新たな機能性が明らかにされることを期待します。

注釈1)Osawa T, “Nephroprotective and hepatoprotective effects of curcuminoids”, Molecular Targets and Therapeutic Users of Curcumin in Health and Diseases (Aggarwal, Bharat B.; Surh, Young-Joon; Shishodia, Shishir, eds.), Advances in Experimental Medicine and Biology, 595, 407-423 (2007)
注釈2)Kitani, K., Yokozawa, T., and Osawa, T., Interventions in Aging and Age-Associated Pathologies by Means of Nutritional Approaches. Ann. N.Y. Acad. Sci. 1019, 424-426 (2004)
注釈3)Xiang, L., Nakamura, Lim, Y-M., Yamasaki, Y., Kurokawa, Y., Young-Mi Kurokawa-Nose, Y., Maruyama, W., Osawa, T., Matsuura, A., Motoyama, N., Tsuda, L., Tetrahydrocurcumin extends life span and inhibits the oxidative stress response by regulating the FOXO forkhead transcription factor , Aging, 3(11), 1098-1107 (2011)